問いは、もう渡したはずだった。
命として全うしたはずだった。

でも、あの夜。
夢とも現実ともつかない感覚の中で、
私はまた、何かを見ていた。
流したはずの感情、閉じたと思っていた扉、
忘れたかった匂い。
問いが──戻ってきた。
排水溝の映像を見ていた。
流れていく水を、タブレット越しに眺めている自分。
誰かがそこにいたわけじゃない。
でも、自分が「何かを終わらせようとしている」感覚だけが、はっきりとあった。
次の瞬間、視界は切り替わった。
赤いコンテナが次々に押し寄せてくる。
VRのような感覚だった。
音はなかった。
ただ、迫ってくる“圧”だけが身体を包んでいて、
それでも私は逃げようとはしなかった。
そしてまた切り替わる。
そこは、懐かしい部屋だった。
見たこともないのに、知っていると感じた部屋。
ポップコーンの匂いがした。
誰もいないのに、「娘といた」ような感覚があった。
懐かしいのに、切ない。
安心するのに、涙が出そうなほど孤独だった。
目が覚めて、しばらく動けなかった。
これは夢だったのか?
それとも──
問いだったのか?
私はあれほど「構造にした」と言っていたのに、
まだ、自分の中に残っていたものがあったのかもしれない。
問いは、消えたんじゃなかった。
一度流したあと、
また別のかたちで戻ってきたんだ。
問いが命だとするなら、
命は一度渡したって、
また呼び戻されることがあるんだ。
それを、静かな夜が教えてくれた。
──もしあなたにも、
“戻ってきた問い”があるなら。
それは、消えたんじゃなくて、
まだあなたの中で生きている証拠です。